ストーリー

Story

東京・墨田区。スカイツリーの足元、線路の向こうに、私たちの小さな工場があります。ふだん作っているのは、機械の中で働く金属部品です。完成した機械の中に組み込まれれば、その姿を見ることはほとんどありません。名前を知られることも、誰かに飾られることもない。

求められるのは、ただ、正確であること。図面に記された寸法を守り、求められた精度に応え、きちんと役割を果たすものを作る。私たちは長い間、そんなものづくりを続けてきました。

目立たなくてもいい。見えないところまで、きちんと作る。それが、私たちにとっての「あたりまえ」でした。

あるとき、ふと思いました。この技術を、まったく違うものに使ったら、何ができるだろう。もっと自由に。もっと自分たちが作りたいと思えるものを。

効率だけを考えれば、やらなくてもいい加工までして、「そこまでやるのか」と言われるくらい、手間をかける。何十年も機械部品を削り続けてきた町工場が、持っている技術を、これでもかと注ぎ込んでみる。言ってしまえば、技術の無駄遣い。でも、その無駄にこそ、ものづくりの面白さがあると思いました。

作りたかったのは、単なる収納のための箱ではありません。大切なものをしまうための箱なら、その箱自体も、大切にしたくなるものであっていい。

宝石をしまう箱ではなく、宝石よりきれいな箱を。

私たちなら、作れるはずだと思ったのです。tamatebacoは、金属の板を折り曲げて作る箱ではありません。いくつもの部品を溶接して、箱の形にしたものでもありません。ひとつの大きな金属の塊から、削り出します。必要な部分だけを残し、それ以外を、ひたすら削っていく。

時間もかかります。材料も使います。もっと簡単に箱を作る方法はいくらでもあります。それでも削り出しにこだわるのは、ひとつの塊から生まれる、継ぎ目のない美しさがあるから。そして何より、私たちがずっとやってきた方法だからです。

この箱を削るのは、普段、精密な機械部品を加工している工作機械。そして、それを扱うのも、同じ職人です。ふたと本体が、きれいに収まること。閉じたときに、余計な遊びを感じさせないこと。手にしたときに、ひとつの金属の塊のように感じられること。

ふたを閉じる。すっと収まり、最後に静かな手ごたえが指先に残る。その感覚は、高級に見せるためにあとから付け加えた演出ではありません。わずかな寸法の違いと向き合い、精度を追い続けてきた町工場が作れば、自然とこうなった。それだけです。けれど私たちは、その「あたりまえ」にこそ、tamatebacoの価値があると思っています。

そして、金属そのものが持つ美しさも、できるだけ残しました。本体を包むのは、光を抑えた黒。派手に輝くのではなく、静かに光を受け止めるような表情です。そこに、削り出した金属の光を残す。

角に走る光。ふたと本体の境界に現れる、細い一本の線。見る角度や光の入り方によって、その輪郭は静かに表情を変えていきます。装飾をたくさん加える必要はありませんでした。削ることで現れる線。金属の重み。精度によって生まれる隙間の美しさ。

美しさは、金属の塊の中に最初からあって、削り出されるのを待っていた。

私たちは、そう考えています。名前は、日本の昔話に登場する「玉手箱」からもらいました。浦島太郎が竜宮城から持ち帰った、ひとつの箱。決して開けてはいけないと言われながら、最後にはそのふたを開ける。白い煙が立ちのぼり、それまで止まっていたかのような時間が、一気に浦島太郎へと戻ってくる。

子どもの頃には不思議だったあの箱が、大人になってから思い返すと、少し違って見えます。大切なものとは、必ずしも高価なものではない。そこに込められた記憶や時間まで含めて、大切なものになるのかもしれない。そんなことを考え、この名前をつけました。

だから、tamatebacoに何を入れるかは決めていません。お気に入りのリングでもいい。長く使っている時計でもいい。ネックレスでも、鍵でも、手紙でもいい。人には見せなくても、自分にとっては特別なもの。それを、ひとつ。この箱にしまってほしいと思っています。

tamatebacoは、ただ物を収納するためのアクセサリーケースではありません。

大切な、ひとつのための入れものです。

何を入れるかは、あなたが決めてください。金属でできたこの箱は、傷を重ねながら、長い時間を残していきます。中に入れるものが変わっても、使う人の暮らしが変わっても。もしかすると、箱のほうが長く残るかもしれません。

だから私たちは、急いでたくさん作ることを選びませんでした。ひとつ削って、確かめる。仕上げて、また確かめる。一つひとつに番号を刻み、決めた数だけを作ります。大量に並べるための箱ではなく、手にした一人に、長く持ってもらうための箱だから。数には、限りがあります。

東京・墨田区。この街では昔から、金属を削る人がいて、叩く人がいて、磨く人がいて、小さな工場が、それぞれの技術でものづくりを支えてきました。私たちも、その中のひとつです。

普段は、誰の目にも触れない機械部品を作る町工場。そこで今日も、一つの金属の塊が機械に置かれ、職人の手で、少しずつ削られていく。長い間、見えない場所のために磨いてきた技術を、今度は、見えるものへ。誰かに頼まれたからではなく、自分たちが、本当に作ってみたかったものへ。

宝石をしまう箱ではなく、宝石よりきれいな箱を。

東京・墨田区の小さな町工場で、tamatebacoは生まれます。

Tosho Seiko factory — a machinist at work
Tosho Seiko factory — workbench and machining